明日はインターネット業者の人が部屋に上がるので、混沌とした部屋を多少なりとも綺麗にすべくゴミ出しをしていた所、道行く人達が月を眺めていた。
ニュースをさっぱりみないので、全然知らなかったのだけれど、今日は月食らしい。
折角だからと、最近あんまり触らなくなったデジカメを手に夜の公園へ着たのだけれど、自分のカメリングスタイルはボタンを押すだけで、露出とか絞りとかホ ワイトバランスとかの設定がよくわからなくて、すべてオートに任せていたり、感で設定したモードで撮ったりしていたのだけれど、やはり上手く取れない。
まぁこんなもんだろうと思って、カメラを放って、月なんて見上げることなんて滅多になくなっちゃったなー、月というか、季節の移ろいとか、電車の中の人とか、すれ違う人とかも関心がない。
関心がない、と今ここで書くまで関心がないことに気が付かないくらいに関心がない。
関心がない、と気が付いちゃうからまだ大丈夫なんじゃないか。いやそれは重症だ。
だいたいそんなことを考えていたら、おじさんが話しかけてきた。
「そのカメラで撮ってるの?綺麗にとれた?」パンパンに厚着をして出っ歯でメガネの人懐っこい顔をして、西の訛り。だけど文章では標準語。
「いいえ、カメラにあまり詳しくないので上手に撮れないんです。」
「月食を見るのは初めて?わしは3回目。11年振りにみた。こうして見ていると、若いころを思い出すね。若い頃はこんなに腹も出てなかったし。お兄ちゃんは大学生?ああ、会社員か。そりゃ大したものだ。」
「残業ばかりで儲けがありません。(苦しいです。サンタマリア。)」
「大変だな。手に職を付けなくては駄目だな。歳をとっても出来るような仕事をさ。じぶんは仕立ての仕事をして食べてきた。和歌山のほうでね。給料は良くなかったけれど高島屋とか、コナカで働いていた。」
「……おや、救急車かな、消防車かな?サイレンがよく鳴っている。」
「日食とか、月食とかが起きると悪いことが起きるとか言いませんでしたっけ。もう災害とかこれ以上起きないで欲しいですね。」
「そうだね。もうこの辺で災害が起きたら、どうなるんだろう。きっとみんな自分のことしか考えないと思うよ。やっぱり都会の人間は話しかけづらいし冷たいわ。」
だいぶ寒くなってきた。
「ここいらへんは、どこへ行っても明かりばっかりだから上手く撮れないんだよ。わしがいた和歌山は明かりなんてなくて、コンビニの数も一番少ない。だから流星群もすごくよく見えたんだ。ぱっぱっと光ってね。そのカメラ、フードがあればいいんじゃないかな。しばらくこの状態が続くんだから、とこかで紙とかダンボールを拾ってきてフードを作ったらどうだろう。街灯の光を遮って、上手に取れないかな」
自分は面倒臭がって
「いや、もういいです。やってもカメラのことあまり詳しくないので、上手に取れませんよ」
と答えた。
「そんならこれでどうだろう」
おじさんはダウンジャケットを脱ぎ、両手で広げた。
「ほら、どうだろう!こうしてカメラの横で上着を広げ街頭の明かりを隠せばよく撮れるんじゃないのか?」
……さ、寒そうだぞ。
そこまでいい写真撮ることにこだわりはないんだけど、おじさんの親切に押され、ミニ三脚を取り付け、米粒よりも小さな月を何とか探し、シャッタースピードをじんわりと落とし、じんわりと体温を奪われていくおじさんを横目に、セルフタイマーで撮った。
「どう?よくとれた?みしてみ?……おお、撮れたな。よかったよかった。へっくしん!」
「大丈夫ですか?風邪引きませんか?」
「風邪ぐらいかめへんかめへん!いいことをすればいいことが帰ってくるし。気分もいい!へくしん!」
「いや、ありがとうございました、いい写真が取れました。風邪には気をつけてくださいね」
「かめへんかめへん風邪くらい!」
というやり取りをした後、おじさんとはわかれた。
遠くで一度くしゃみの音を聞いた。
「かめへんかめへん!風邪くらい!」というフレーズがなんとも印象に残った。
で、まぁ、『いい写真が取れました』といいつつも、写真はおじさんの親切にもかかわらず、光を遮る前と変わったようには見えないんだけれど、カメラの勉強ちょっとやろうかな、と思ったのだけれど。
明日は久しぶりにインターネット開通する日だ。
地震以降テザリングでつないでいたので、便利になる。テザリングは重いのでネットだらだら見る時間が減って、それが良かったのかも知れないけど。
風邪引かないようにしないと。